母の子宮にいた頃
病で父が安定したサラーリーマンの職を失った時、母が私を受胎した。身ごもった当時の母にとって、先の見えない出産、子育てへの得体の知れない不安は大きかったろう。その時、子宮にいた私へ、母の不安のメッセージはどう伝わったか?胎児である私は、母のメッセージをどう受け止めたか?今も危機の時、露出する私の素顔は、子宮にいた頃の私に違いない。強大な専制君主であった母の憂いに晒され、なす術なく、受け入れざるを得なかった無力な胎児のイメージが浮かびあがる。母とのドラマは既に消失したが、荒んだ母とのダイアローグの名残、残骸は残り、私の心を型取っている。誰しも密かに体験する物語の一つに過ぎないけれど、困難な状況に遭遇する時、母の子宮にいた頃を想像することは、悪くはない。